3月半ばのある日。冬の北アイスランドに行ってきました。北アイスランド観光といえば夏が主流ではあるものの、冬は冬で違った姿を見せてくれます。それはアイスランド全体に言えることであるかもしれませんが、「北アイスランドでしか見られない!」という自然の不思議に満ち溢れた魅力を再確認できるような旅になりました。

北アイスランドツアーの出発点であるアクレイリの人口は約1万7千人。レイキャヴィークの首都圏周辺を除いた中では最大の都市で、北部アイスランドの首都とも呼ばれています。9世紀にはヴァイキングが入植したと言われていますが、都市として急速に発展したのは18世紀後半に入ってからです。当時アイスランドを統治していたデンマーク国王により開発が進められ、デンマークの商人がこの地域で商業を発達させていった歴史も影響し、今日でもデンマークの名残が感じられる、まるでおとぎ話の世界のような町並みがアイスランド観光の人気スポットのひとつに数えられています。

アイスランドマップ

早朝のアクレイリ空港。プロペラ機のすぐ後ろにはうっすら雪化粧のフィヨルドの山が見られます。

日照時間がずいぶん長くなったとはいえ、まだ夜も明けぬ朝7時15分。レイキャヴィーク空港からアクレイリ行きの、定員100人にも満たないであろ う小さなプロペラ機に乗り、約40分ほどの空の旅からこのツアーは始まります。早朝にも関わらずフライトは満員御礼状態。私たちのようなツアーグループの他、ビジネスに向かう男性の姿が目立ちました。たった一人の客室乗務員さんが配ってくれた機内サービスの温かいコーヒーとアイスランドのクリームチョコレートを口にしてホッと一息ついたかと思うとすぐに、「当機はまもなくアクレイリ空港に着陸態勢に入ります。」とのアナウンスが。窓から見下ろすと、雪化粧の山と山の間を飛んでいました。アクレイリは氷河の侵食によって形成されたフィヨルドの谷間にある町だということを改めて思い出しました。

路面もうっすら雪に覆われたアクレイリ空港に到着すると、少し明るくなった空が周囲の山々を薄い赤紫色に染めています。雪はすでに止んで空気はとても澄んでおり、頬を触れる風は冬とはいえども、とても気持ちのよいものでした。アクレイリは北に位置するものの、冬は意外と寒くはなく、夏はとても快適な気候です。3月のアクレイリの平均気温は最高で2.1度、最低でもマイナス4.2度。北極圏のすぐ近くに位置するのにアクレイリの港が不凍港であることからも、その気候の穏やかさが窺えます。小さな到着ロビーを出、一日の移動に利用するバスに乗り込み、いざ出発進行!

アクレイリの町。海底にある天然の水中煙突は、一番高いもので60m程もあります。

まず初めに、フィヨルドの間の湾を挟んでアクレイリの町を対岸に見下ろす丘に上がります。ちょうどその目下の海中には世界でも例を見ないという、ブルーラグーンの泥としてもおなじみのシリカが蓄積してできた天然の水中煙突「Strýtur(ストリートゥル)」があるのです。その煙突を伝い、海底から 約75度のお湯が、1秒間に約100リットル吹き出しています。残念ながら海上からは見ることができませんが、目前に広がるカラフルなアクレイリの町並み と自然が生み出した不思議な技が対照的です。

次の目的地は「Goðafoss(ゴーザフォス)」、訳して「神の滝」です。西暦1000年、アルシンギ(議会)にてキリスト教への改宗が可決されたとき、アクレイリ地方の長であったソルゲイル・ソルケルスソンも、改宗するかどうかの決断を迫られました。法律家、かつ古代北欧神話信仰者だった彼は、この滝にたたずみ、瞑想を続け、キリスト教を受け入れることを決意したと言われています。そのときに、過去の信仰の神の偶像を滝に投げ入れたことがこの滝 の名前の由来になりました。

青く光る滝の幅は約30メートル、落差は12メートルほどですが、冬場は地面が凍結して足元が安定しないので、滝のすぐ近くまでは行けません。この滝はゴールデンサークルツアーで見られるグトルフォスに比べると小規模ではあるものの、透き通った水の色が言葉にできない美しさでした。アイスランドの景色には色々な種類の「青」具合があり、アイスランド人はそれを細かく見分けることができると以前聞いたことがありましたが、この滝を見て、確かにこの青さは漢字の「青」一文字では簡単に表せないなぁと感じました。

滝を後にし、車はミイヴァトン湖周辺に向けて走ります。湖に近づいていくにつれ、不思議な形の丘陵地帯が見え始めます。でもよく見ると、何かが違うような…丘よりももっとでこぼこしています。アイスランドで観察できる火山の形態のひとつに、割れ目噴火というものがあります。今から約2300年前、プレートの裂け目から噴火して流出した溶岩が、当時のミイヴァトン湖にも流れ込み、溶岩の下に水を閉じ込めてしまいました。水は高温に煮えたぎる溶岩の下で熱せられて水蒸気爆発を起こし、そこにクレーターのようなくぼみを残しました。

ミイヴァトン湖の周辺に見られるのは、まさにこの「擬似クレーター」なのです。この地には、このような擬似クレーターがいくつもあり、それ らが丘陵地帯のように連なり、ミイヴァトン湖の独特の風景を作りだしています。ちなみに、この擬似クレーターはアイスランド以外の場所でも見ることができます。それがどこか、みなさんは分かりますか?それは、火星です。1960年代の宇宙飛行士たちが、このアイスランドにやってきて月面歩行の訓練をしたという史実にもうなずけます。

擬似クレーターの間には遊歩道も作られており、散策できるようになっています。私たちが訪ねたときは雪が覆って、まるで墨絵を思わせる風景でした。擬似クレーターの丘の上に立ち、氷が張ったミイヴァトン湖を見渡すと、面積37平方キロメートルの周囲には、遠くに様々な形の山に丘、そして近くには溶岩を積み重ねて羊の囲いに使っている様子などが見られます。

冬場はとても静かで心が洗われるような場所ですが、雪と氷の溶けた夏場のミイヴァトン湖は、とてもにぎやかになります。というのも、湖の水質に栄養分がたくさん含まれているため、夏の間に大量発生した蚊を餌に、確認されているだけでも約240種の渡り鳥がやって来るからです。鴨だけでも少なくとも16種、日本で越冬するオオハクチョウもこのミイヴァトンで子育てをするのです。実は、湖の名前を日本語に訳すと「蚊(ミイ)の湖(ヴァトン)」。どれだけ蚊が多いか想像ができるというものです。

またこの湖は日本人にもなじみの深いマリモの生息地でもあります。世界でも球形のマリモが見られるのは日本の阿寒湖とここミイヴァトン湖だけだそうです。ただ、ここのマリモが直径10センチメートルもあり、さすがアイスランド!この国の自然のスケールの大きさならではです。最近の研究によると、ここのマリ モは約8500キロ離れた日本の阿寒湖のマリモと同種のものだということが判明しています。渡り鳥によって運ばれたと言われていますが、自然の不思議を感じさせられますね。

(上)水蒸気爆発によってできた疑似クレーター。SF映画さながらの景観です。
(下)ダークシティの奇岩群。岩陰から今にも妖精がでてきそうです。

擬似クレーターを含め、火山活動によってできた様々な自然の奇跡を目にすることができるのがこのミイヴァトン湖周辺の特長ですが、中でも圧巻なのが「Dimmuborgir(ディンムボルギル)」。「暗い町」という意味のこの奇岩地帯は、ここ北アイスランドでしか見られません。

この地形は、約2300年前の割れ目噴火の際、溶けた溶岩がミイヴァトン湖方面に周囲2キロに渡って流れ出た時に作られました。溶岩から蒸発した水蒸気により大小に変形した奇岩郡が織り成す地形は、夏場はまるでSF映画の暗黒の世界のようですが、今回は雪が深かったためか、不思議とどこかメルヘンチックにも感じられました。

車を降りて迷路のような遊歩道を探索すると、あちらこちらに変わった形の岩が。最初に見える奇岩のひとつには大きな穴が開いており、妖精の通り道のよう。 時折足を止め、あの岩が何に見えるだろうかとみんなで一緒に想像してみました。同じひとつの岩でも見る人によっては違ったものに見えたりと、想像力を駆り立てられます。色んな形の奇岩を見ていると、ふと岩影から妖精がヒョコッと顔を出してもおかしくないように思えてきます。実際アクレイリの人々は、アイスランドのサンタクロースはここに住んでいるのだ!と主張しているそうです。

アクレイリ探検後半は地熱体験です。ディンムボルギルを後にした私たちが向かったのは、アクレイリが地熱地帯であることを直に確認できる 「Námafjall(ナウマフィヤットル)」。車が近づくにつれ、目の前の山がどんどん黄褐色に変わっていき、車の中でも硫黄の臭いが感じられるようになりました。

泥が勢いよくわき出ています。周囲は硫黄の臭いが。

ここでは泥がグツグツと煮えたぎっており、蒸気が地中から勢いよく吹き出る音を耳にすることができます。わたしたち日本人が、こんな景色から連想するのは温泉ですね。

そうです、この地が地熱地帯にまがいない証拠に、この近郊にも温泉がありました。「ミイヴァトンネイチャーバス」と呼ばれている場所です。一瞬ブルーラグーンを思い起こさせる雰囲気を漂わせているものの、実際はもっと自然に近い形で残されています。

2004年の夏にオープンしてからは北アイスランドでも注目の観光スポットになっています。全体的にはブルーラグーンの3分の1に満たない大きさでしょうか。更衣室から温泉まではブルーラグーンのように内湯でつながっていないので、寒さを覚悟して外に出ないといけないのですが、一度入るとその心地よさは天 国のよう。お湯はおよそ2500メートルの地下から汲み上げられている天然湯。青紫色のそのお湯は、足元まで見えるほど透き通っています。私たちの到着と同時に雪が降り始め、より幻想的な雰囲気の中、雪山を背に、温泉を貸しきったかのような、ゆったりと贅沢な気分に浸れました。

ミイヴァトンネイチャーバス。雪山を背景に、ゆったり旅の疲れを癒せます。

温泉の後は心も体もほっこりして、車に気持ちよく揺られてアクレイリ空港へ。再び満員御礼のプロペラ機に乗り、レイキャヴィークの空港に着いたのが6時頃。ちょうど11時間の探検でした。

冬のアクレイリの旅は夏とは違う個性的な風景が見られます。その空気と色彩は実際にこの地に立ってみなければわかりません。フィヨルドの谷間を飛び、この国の歴史、自然、そして温泉を堪能できるという点では、南アイスランドとは一味違った地球の不思議が凝縮された旅だと言えるかもしれません。

春の訪れはまだ遠い北アイスランド。一緒に探検してみませんか?




(2012年4月 by P)

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