日本には季節ごとに"旬の食材"というものがありますね。たとえば冬だとカニや大根など。旬のものは栄養価が高く、食すると季節を味覚で感じ、健康に過ごせると言われており、日本人の食文化においてとても大切な役割を果たしています。このアイスランドにも今の時期によく食べられる物があります。日本の旬とは違うこの極北の国アイスランドの旬な食べ物って一体何でしょうか?

アイスランドの文化は、ヴァイキングや北欧神話と深いつながりがあります。古代北欧の旧暦に従って、アイスランドでは毎年1月19日から25日の間の金曜日から翌月2月24日直前の土曜日までの期間を "ソーリ (Þorri)" と呼びます。これは古代の冬の王様にちなんで名づけられたものと言われていますが、この期間には "ソーラマートゥル (Þorramatur)" 「ソーリの食べ物」と呼ばれる伝統食が食されます。これは食材ひとつを取って呼ぶものではなく、様々な食材の総称です。しかし日本の食材と比べてみると、その違いは明らかです。

代表的なソーラマートゥルとは・・・

  • ハルズフィスクル(Harðfiskur)
    鱈の身の干物。バターをつけて食べる。

  • キャイストゥル ハウカール (Kæstur hákarl)
    地中に埋めて腐敗させたサメ肉。アンモニア臭が強く、カマボコを硬くしたような弾力のある食感。

  • ハウンギキョット (Hangikjöt)
    羊の燻製。「吊り下げられた肉」という意味。これはクリスマスなどにもよく食べられ、日本人にも食べやすい味。

  • ブロウズミョール (Blóðmör)
    羊の血や脂肪をライ麦や押し麦と練ったソーセージの一種。独特の風味で、アイスランドでも好みが分かれる。

  • リヴラルピルサ (Lifrarpylsa)
    羊のレバーを用いてブロウズミョールと同じ製法で作られたもの。ブロウズミョール同様、好みが分かれる。

  • スヴィーズ (Svið)
    羊の頭の毛を焼き、半分に切って茹でたもの。アイスランド人にとっては目球が珍味。スーパーでも年中見られるパーティのご馳走。

  • スゥールサーゼル・フルーツプンガル (Súrsaðir hrútspungar)
    羊の陰嚢や睾丸を熟成させたもの。味に癖があり、鱈子を押しつぶしたような食感。これやスヴィーズは、小さく切ってゼリー寄せにすることがよくある。

 

文字にしてしまうと驚くような内容ですが、これらは食材に乏しいアイスランドの厳しい冬に打ち勝つための貴重な栄養源になる保存食なのです。野菜はジャガイモくらいしか一緒に摂らず、ほとんどが動物性たんぱく質です。アイスランドはヴァイキングの国だということをつくづく思い知らされる野性味溢れるメニューです。

<左の皿>
上段:ハウンギキョット(羊の薫製)、スゥールサーゼル・フルーツプンガル(羊の陰嚢と睾丸)
中段:リヴラルピルサ(羊のレバー)、ブロウズミョール(羊の血と脂肪)、キャイストゥルハウカール(腐敗させたサメ肉)
下段:スヴィーズ(羊の頭)
<右の皿>
ソーラマートゥルに合わせて食べるパン2種類ルーブロイズとフラットカカ

(写真出典: Wikipedia)

この「ソーリの食べ物」ソーラマートゥルの歴史は意外と浅く、ソーリの時期に食べられるようになったのは実は19世紀あたり。諸説はあるものの、デンマークに住むアイスランド人 学生たちが、自分たちの故郷の食材を持ち寄って食べ始めたのが起源といわれています。それから第二次世界大戦後、首都レイキャヴィークにはたくさんの人が 地方から移り住むようになり、あるレストランで故郷の食生活を再現しようとソーラマートゥルを提供するようになりました。今では多くのレストランでビュッフェ形式のソーラマートゥルを楽しむことができます。この時期はいたるところでソーラブロート(Þorrablót)と呼ばれるパーティも開かれ、アイスランドの地酒ブレンニヴィーン(Brennivín)を片手に、みんなで昔を偲びながらワイワイと食事することも。

これらの食材の一部は、ソーリの期間以外でも単品でスーパーなどで購入できますが、今の時期はセットで販売されるので、自宅でも簡単にソーラマートゥルを楽しむことができます。アイスランドに暮らす私たち一般人の生活にとても身近な食材だと言えるでしょう。

しかし、昨今ではソーラマートゥルは若者にはあまり人気のあるものではないらしく、ある20代のアイスランド人に言わせると「もっとおいしいものがあるのに、どうしてこんなものを食べるのか?」とのこと。確かに今の時代は5、60年前とは比べ物にならないほど食材の流通がよくなり、昔のように保存食に頼らずとも、おいしいものが好きなときに好き なだけ食べられるようになりました。そしてこの独特の調理法も、今時の若者には受け入れ難いものがあるようです。これは日本の旬も同じこと。季節を問わず にいつでも何でも食べられるようになり、旬を感じにくくなってきているだけではなく、食材の扱い方にも不慣れになってしまっていることは悲しいことです。

この時期は、幼稚園でも伝統料理が給食に出されます。

飽食の時代にあるからこそ、アイスランドの若者もソーラマートゥルを楽しみ、ヴァイキングの末裔としての誇りも失わないでほしいなぁと願ってやまない私です。

 

(2011年1月 by P.)

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