夏が過ぎ去る気配を感じ始めた8月下旬、素晴らしい晴天の中、毎年恒例の「レイキャヴィーク・カルチャーナイト」が開催されました。夏の最後の瞬間を名残惜しみながら、祭典で町中は彩られました。日照時間の短いアイスランドの冬を乗り切るために夏の間に思い切り日光を浴び、夏を目一杯楽しもうという人々の思いがさらにこの祭典を盛り上げています。5月から8月の夏の間、毎年いくつかのイベントが催されますが、暖かい太陽の下で楽しめる野外のお祭りはこの「カルチャーナイト」が最後なのです。

カルチャーナイトは、レイキャヴィーク市の誕生日である8月18日と近くなるよう毎年8月第3土曜日に開催されます。ちなみに今年でレイキャヴィーク市は225歳になりました。1996年、レイキャヴィーク市政誕生210年を記念して開催された催しが大盛況を博した結果、毎年行われるカルチャーナイトとして遺されたのです。また他の北欧諸国でも夜中まで繰り広げられる祭典があり、レイキャヴィークもこれにならったという背景もあったでしょう。アイスランドにとっては6月17日の独立記念日に並ぶ大きな祭典であり、市民にとって年1回の楽しみのひとつになっています。来場者数は毎年10万人 以上。レイキャヴィーク市の人口が約12万人であることを考えれば、大多数の市民が参加していることがわかります。今年のテーマは「GAKKTU Ì BÆINN」。直訳すると「どうぞ町を歩いてください」という意味ですが、これは客人を家に迎え入れる時に日常的に使われるアイスランド語のフレーズで、「ようこそ」という意味でもあります。ホームパーティーのように人々を町のお祭りに招き、皆で楽しい時を共有するという気持ちが込められています。

上左:ジャズの演奏の横では、なぜか散髪屋さんがデモンストレーションを行っていました
上右:通りがけにチェスの対戦はいかが?
下:普段は落ち着いた雰囲気の銀行も、アート作品に仕立て上げられました

祭典は子供から大人までお金をかけずとも一日中楽しめるようになっています。この日は特別に市バスも無料になります。バラエティーに富んだユニークなプログラムが年々増え、内容は盛り沢山。様々なアート展示、パフォーマンス、コンサート、マーケットなど多岐に渡り、ギャラリー、美術館、図書館、市庁舎、バスターミナル、銀行まで町の施設を総動員していたる所で繰り広げられます。色々なイベントやライブを覗きながら大通りを歩き、知人に会ったら立ち話をする というのもこの日の醍醐味。この小さな町では大通りを歩けば、知人、友人にばったり会うなんてことは日常茶飯事です。こちらに住み始めた当初は、この偶然に一喜一憂していたのですが、本当はこの小さなダウンタウンでは当たり前のことなのですが、ほとんどの市民が町に出ている特別の日となれば尚更のことで す。

いつも通っている道に洗濯機が。かなり斬新なアート展示?でした

毎年カルチャーナイトと同じ日に開催されるもうひとつのイベントに「レイキャヴィーク・マラソン」があります。子供から大人まで参加できるよういくつかのコースが用意され、外国からの参加者も合わせて1万人以上が参加します。毎年この日が近づくに連れ、大会に備えてジョギングする人の姿を町のいたるところで見かけます。当日、マラソンは午前に開始され、走った後の午後はお祭りに繰り出すという流れです。この長い祭典の1日の幕開けをマラソンで始められたら、あなたもレイキャヴィーク市民の仲間入り!と言えるでしょう。

音楽に合わせて準備運動をしてから子供達のマラソンが始まります。みんな、がんばれ!

祭典の数あるプログラムの中でも特にユニークなイベントをひとつご紹介しましょう。 それは「オープンハウス」。町中心部の個人宅が自宅を開放し、道行きの訪問者にワッフルとコーヒーを振舞うというイベントです。この日は見ず知らずのお宅 にお邪魔できてしまうのです。治安の良いアイスランドならではのアイデアですね。大通りの賑わいから一先ず離れ、知らないお宅にお邪魔するなんて、ワクワ クしませんか?毎年お祭りが近づくとお宅を開放をしてくれる人々を募るのです。そして参加する家庭には材料が支給されます。まさに「GAKKTU Ì BÆINN ようこそ!」です。自宅でミニコンサート、展示会を開いたり、ガーデンパーティーなど独自のアイデアをプラスして企画しても良いのです。我が家もいつの日か参加してみたいと思っているのですが、さてどのような面白い出会いがあるのでしょうか?

この日は町中がとても自由で平和な雰囲気。何かお祭りでやってみたいアイデアがあれば、事前に申し込んでプログラムに載せてもらうことができ、誰でも参加可能です。毎年様々な催しを渡り歩くのもとても楽しいのですが、見ているだけではなくいつかは自ら何か企画して参加したい気持ちに駆られます。皆が思い通りに参加して楽しい時をシェアする、そんな気持ちが全体から感じられ、元気を沢山もらった一日でした。

野外ステージでのコンサートは夜まで続きます(撮影Natsha Nandabhiwat)

白夜が終わりかけるこの時期、外は夜9時頃まで明るく、祭典は深夜まで続きます。祭典の最後を飾るのはクロージングイベントの野外コンサートと花火です。今年は新しく誕生したコンサートホール「ハルパ」の点灯式も重なり、暗くなった夜空にホールが点灯されると人々から歓声が沸き起こりました。締め括りに夜11時に打ち上げられた花火では遠い日本の夏祭りを思い出し、今年の夏も終わりかとしみじみとしながら家路に着くのでした。

しかしさらにお祭りの余韻を楽しみたい人には、花火の後もまだまだ楽しめます。この日ばかりは早朝まで営業しているパブで夏最後のお祭りを最大限に満喫するコースです。体力に自信のある方は是非どうぞ!

プログラムを片手に町を散策しながらレイキャヴィークのカルチャーを満喫できる、このカルチャーナイトに合わせてアイスランドを訪れるのはなかなか通な楽しみ方でしょう。

このお祭りのあと暫くすると夏休みが終わり、学校では秋学期が始まります。観光シーズンのピークも過ぎ、町は徐々に落ち着きを取り戻します。



(2011年10月 by N)

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