今年も、アイスランドの秋は駆け足で過ぎていきました。

8月下旬から日中の気温が少しずつ下がり、澄んだ空気のなかにはひんやりとした秋の予感が感じられるようになります。通年この頃から雨が多くなります。今年の7月は大変天候がよく、驚くほど晴天の日が続いたので、8月下旬の雨の恵みは数少ないアイスランドの植物や灌木たちの乾きを潤わせたことでしょう。わたしもほっとひと息ついたのを覚えています。それにしてもこの9月は雨が降ること降ること!8月下旬に一度季節の変化を知らせる嵐がアイスランドを 訪れたのですが、それでも嵐の後の気温は17度前後でした。しかしその後9月中旬の大嵐の到来を境に、気温は毎日10度前後に下がってしまいました。

8月の下旬には長かった夏休みが終わり、子供たちも学校に通い始め、すべてが平常に戻ります。やっと日の長さもヨーロッパ大陸の夏程度になり、日の出とともに目を覚まし、日の入りとともに就寝できるようになります。6月から眠るときに使っていたアイマスクともお別れできるのがこの時期です。必ず枕元にあったアイマスクが、必要のなくなった今は行方不明になってしまいました!アイスランドでは、失くしものがあるとすべて妖精が借りていったと片付けてしまいますが、これもそういうことにしておきましょうか...。

 

 

この季節のアイスランド人の楽しみは、何といってもブルーベリー摘みです。レイキャヴィークからでも車で10分もいけば、すぐに灌木の広がる自然に出会えます。そこではこんな風景を見ることができます。

この紅葉をしている植物はすべてブルーベリーの木。ブルーベリーはだいたいこれくらいの高さを維持しながら、横に広がって繁殖していきます。この鮮やかな赤茶は、まだ緑を残している低木やコケ、また黄色に変化しつつある植物の中では、ひときわ目に付きます。

ブルーベリーのその実の色のうつくしいこと!葉の色とコントラストをなし、とてもおいしそうに見えます。実はとてもつまっていて、歯ごたえがあり、甘酸っぱく、のどの渇きをさわやかにいやしてくれます。

このブルーベリーよりも少し色が濃く小さめの実は、岩香蘭。こちらも食べることができますが、ブルーベリーの繊細な味と比べると、少し苦みが気になります。大地の大味と言えましょうか。

ブルーベリーの生育している場所には、間違えなく岩香蘭やじゅうたんのようにふかふかしたコケがその地表を覆っています。アイスランドの大自然を遠くに眺めるのも醍醐味がありますが、このようなミクロの世界もたいへん美しいのです。
このような自然の恵みをアイスランド人が放っておくはずはなく、8月の下旬から9月の上旬にかけて、バケツやビニール袋を車に、たくさんのアイスランド人たちが郊外にベリー摘みに出かけます。ほ~ら、おいしそうでしょう。

毎年わたしたち家族もベリー摘みに行きますが、このうれしそうな顔を見れば子供たちに渡した袋がどうしていっぱいにならないかが分かりますね!やっぱりこ うした摘みたてのブルーベリーを食べるのが、一番おいしいのでしょうね。持ち帰ったブルーベリーや岩香蘭はスキールというアイスランドのヨーグルトに混ぜ て新鮮なまま食べるのがポピュラーですが、アイスランド人たちはにこれらのベリーを煮てジャムを作ったりもします。今年はわたしも初めてジャム作りに挑戦 しました。白砂糖ではなく、精製していない砂糖で味付けをしたジャムは、ブルーベリーの酸っぱさにやさしい甘さがひきたって、なかなかの出来具合でした。

 

 

こちらはシングヴェトリル国立公園、9月中旬の写真です。

この頃がアイスランドでは紅葉が一番美しい季節になります。10月2日の初雪が、今ではこれらの紅葉を枯らしてしまいました。9月の雨をふくんでしっとりとしたコケも、寒さで少しずつ色が抜け茶色くなっていきます。ただ、これらの岩の上に雪が積もりだすと、また風情があっておもしろいですね。日本人の好きなコケや岩は、アイスランドを旅行しているとそこらじゅにたくさん目にすることができますが、自然の作り出すこの情緒のある庭は、庭造りで有名な日本の造園家でもかなわないかもしれません。

そして雨あがりには、自然はこんなプレゼントをしてくれます。

大自然の中にかかる虹は、そのスケールではシングヴェトリルの紅葉に負けてはいません。雲の上にでも登っていけそうなくらい、大きな、大きな虹でした。空気が澄んで透明度が高いので、虹の色がはっきりと見えます。

そして最後に、ある晴れた日の夕焼け。

10月2日の初雪から、天気が晴れになりました。空のパレットにこんな桃色や紫が含まれていることを、みなさん御存知でしたか?まるで自然の偉大なカンバスを目にするようです。そして、こんな夜にはアイスランドではオーロラを目にすることも珍しくありません。

そうです、秋が終わると、アイスランドではオーロラの舞う、長い冬が始まります。

 

(2008年10月)

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