アイスランドの6月はようやく夏らしくなる季節です。冬のコートとしばらくお別れできるのもこの月から。空気の透明度が高いことと、高い建物や木のような日光を遮るものがあまりまわりにないために、天気が良い日はその強い日差しのために気をつけないとあっという間に日焼けをしてしまいます。さすが北極圏に近いアイスランドだけあって、風はなかなか冷たく、肌を刺す日差しを緩和するのにちょうどよい良いと感じるほどです。5月の新芽がどんどん大きくなって、緑の色が風景のなかに占める割合をぐんぐん増やすのもこの時期です。



しかしこの季節のみどころは、なんといっても丘を埋め尽くす紫の花のじゅうたん「ルピナス」と、いたるところで出会える卵からかえった渡り鳥のひなたち。

まずはルピナスのお花畑をご覧ください。

ルピナスはもともとアイスランド原産の野生植物ではなく、アラスカから移植した結果、アイスランドの天候と土壌に適合して広がっていったものと見られています。特にここ数年、ルピナスはその繁殖区域を大幅に広げ、アイスランド既存の高山植物の生息を脅かすほどなりました。その群生には賛否両論がありますが、森林や植物の少ないアイスランドに住んでいると、5月下旬から1か月程の短期間に咲き乱れるルピナスは、見る者の目を楽しませてくれる貴重な風物詩です。
ルピナスという名は、どんな土地にも育つそのたくましさと獰猛さから、ラテン語の「狼」が語源になってるようですが、まさにその名に恥じない生命力です。

アイスランドでは花全体が紫単色のものと、紫に少し白が混じった種をよく目にします。この白の混じったルピナスも、つぼみのころは紫が圧倒的な色の配分です。しかし、満開になるにつれて紫の中にも白の割合が全体的に増えてくるのが不思議です。栽培されているものは別にして、アイスランドの野生のルピナスに関しては他の色はにほとんどお目にかかることはほとんどありません。

他にアイスランドの緑にアクセントをつけているのが、キンポウゲ。風が吹くと、頭を振るように揺れて、小さな女の子たちが笑いさざめいているような、そんな風情があります。

それ以外は例えばカモミール。花の白さが目に眩しく映ります。さまざまなせり科の植物の白も色彩を添えます。

そして今度は渡り鳥たちについて。渡り鳥たちは4月の中頃にアイスランドにやってきて、5月にはパートナーを見つけ産卵します。抱卵後に卵からか えったこれらの雛たちが6月のアイスランドをたいへんにぎやかにしてくれます。水辺や草原などで気を付けて見ていると、雛を連れた渡り鳥の家族に出会うことは珍しくありません。レイキャヴィークの街中でさえもそんな渡り鳥の親子連れに遭遇することがあるほどです。

例えばコザクラハシガンの親子連れ。めずらしく4家族一緒にお散歩中です。雛たちはだいぶ大きくなっています。この写真は世界遺産であるシング ヴェトリル国立公園にあるシングヴァトラ湖で撮影したものです。アイスランドで一番大きい湖で、しかも、たいへん風光明媚な場所であるだけに、ガンたちの お散歩は大変優雅に見えました。

それからカルガモの子供たち。これはレイキャヴィークの街中にある市庁舎前のチョルトニン湖にて撮影したものです。おしりをふりふり泳いでいくその姿は大 変ほほえましいですね。雛たちが水にもぐるときに“ぽちゃん”と音がしますが、その音もなんだか丸く聞こえます。レイキャヴィーク市民も子供連れで渡り鳥 たちにえさをやりによくここに来ますが、こういった渡り鳥の親子連れは警戒してか、決して人間の近くまでに寄ろうとしません。

こちらはチュウシャクシギ。この写真では姿がよく分かりますが、溶岩台地や草はら、コケの生えた岩のごつごつしたところにいると、なかなか周りと見分けがつきません。ただ雛がいるところに近づくと、鳴き声をあげてパートナーに知らせ、低空飛行をしながら警戒します。雛が小さいうちは、親鳥たちも気が気でないのでしょう。わたしたちの目には直接触れなくても、自然の中では激しい生存競争が繰り広げられているのでしょうね。

このようにさまざまな植物と渡り鳥たちが、アイスランドの6月に彩りをそえてくれます。

 

(2008年6月)

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