アイスランドと新型コロナウイルス ③
アイスランドでは、ここ数日雨続き、すでに朝晩の空気は冷え始め、冬の到来が間近に感じられるようになりました。
アイスランドを含めたヨーロッパでは、バカンスシーズンは終わりましたものの、各国その後始末に追われています。日本でも人の動きが始まったと同時に感染率が高くなりましたが、ヨーロッパでも同様の傾向が見られ、帰国者にPCR検査を義務付ける国が増えてきました。若者の感染、無症状者増加は、ヨーロッパでも、ここアイスランドでも同じです。国内の感染者数や、自宅隔離者は増えましたが、幸いなことに、国内重症患者や死亡者は今現在でておりません。アイスランドでは、感染の追跡調査とクラスターの封じ込めが徹底的に行われています。

下の写真:ペンキ塗りの道具。木の板は容器に入っているペンキを混ぜるときに使う。
さて、今年はいつもとは違う夏でしたが、それでもアイスランド人たちは、毎年の儀式のように行われる夏の行事を、今年も無事遂行しました。それは何かというと、国内旅行と家の修理です。海外旅行が大好きなアイスランド人も、さすがに今年の夏は国外への移動は控えめ。その代わりに、アイスランドをぐるりと1周する国内旅行や、ベランダのような大がかりな日曜大工にチャレンジする人たちが増えたような印象を受けました。
国内旅行は主に2種類、キャンピングカーやテントを使ったアウトドア、もしくはサーモンフィッシングをメインにしたサマーハウスでの滞在になります。前者が子供を連れた家族旅行で、メインの季節が幼稚園や学校が休みになる6月から8月とすると、後者は大人が中心で、7月から9月の鮭が産卵をしに川を上ってくる時期にあたります。
そして、もうひとつの行事は家の修理。これには、例えば家や垣根の修理・ペンキ塗り、庭の修理や手入れ、庭やテラスなどの増築などが含まれます。氷点下の気温や積雪、または強風や雪嵐などの厳しい冬の気候のために、このような作業はすべて夏の間に行われなければなりません。
しかしながら、アイスランドの問題は、専門職の人手がまったく足りていないこと。大工さん、ペンキ塗り職人、配管工、電気技師は、いつも引っ張りだこで、1か月や2か月待ちは当たり前、場合によっては半年待つこともあります。しかも、アイスランドの夏は短く、雨が多い。外で行う作業が予定よりも大幅に遅れるのは日常茶飯事、今日から修理に人が来るはずだったのに、誰も来ないし連絡さえもない、なんてことがよくあります。催促のメールやメッセージを入れ、電話を何度もかけて相手が来るまで尻を叩くのも、何と修理を頼む側の仕事なのです。これには、結構神経がすり減り、疲れます…。仕事だから、しっかり責任を持って受けてよ、と思うのですが、そう考えないのが、こちらの人たちです。

アイスランド人は基本的に、簡単な家の修理や増築を自分たちの手で行います。職人さんをあてにしているといつになるか分からないのと、人に頼むとコストがかさむのが主な理由です。
しかし、恐らくそれ以上に、アイスランド人は自分たちの手で修理をすることに心理的な抵抗がありません。アイスランドでは、中学生の年齢から子供たちが夏に市や地方自治体でアルバイトをすることが多く、その仕事内容が遊歩道の草木整備や簡単な修復作業になります。また中学校の選択の授業にも、日曜大工があるうえ、親類の中の誰かが職人であることが多く、修理・修復作業の助言に欠くこともありません。日曜大工の店や工具店に行くと、店員さんの多くが経験者なので、分からないことを教えてもらうこともできます。また、これは結構大事だと思うのですが、パーフェクトを求めない国民性も、ものを作ることを気軽に楽しめる要素になっているのではないかと思います。

夏になると、日曜大工のお店が繁盛し、しかも天気のいい日には、更に売り上げが伸びるのも頷ける話です。そんな日はあちらこちらで、木を削る音、釘を打つ音、芝を刈る音が聞こえてきます。日照時間が長いせいもあって、日中仕事をした後に、家や庭の作業をすることもこの時期は問題なし。特に外での作業は天気に大きく左右されるので、皆できることをできるうちにやってしまおうと頑張ります。朝早くから夜遅くまで、正直なところ、仕事よりも精が出ているのではないか、と思ってしまうくらいです。コロナ禍で、できる仕事は在宅で済ませるのが普通になり、時間を好きに使えるのも、大工仕事に力が入る理由でしょう。
ところで、今回の壁のペンキ塗り。通常、庭専門のわたしですが、子供にやってもらう手前、一緒に試してみました。考えていたよりも、ずっと楽しかったですよ。大きな刷毛で壁をがっーと塗っていくのは爽快な気分になります。何だか新鋭アーティストのような感じで。ただ、塗った後に少し自慢したくて、他の隣人に見せたところ、「えっ!これで塗ったの?あまり前と変わらないけど」と言われて、がっくりしてしまいましたが…。
(2020年9月 J. Sakamoto)
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